対馬運用最終日
2006年7月28日
 今朝も素晴らしい快晴のなかでの目覚めだった。
 心地よい風が島を吹き渡っている。権現山の森林公園は 鶯のコーラス、アキアカネの群舞、湿気の多い山道には なんと小さな蟹たちが小走りに道を横切っていく。どうして ここに蟹たちがいるのだろう。海抜1830mの山のなかだ。
 発電機が山のシャックにあるので、仕方なく、とぎ終わった 米と水の入った炊飯器を持って例の103段の階段を上がっていく。
 各局と交信できた興奮をまだ感じるアンテナも見ながら 発電機の置いてある東屋に行く。
 発電機が心地よいリズムで動き出す。20分もしないうちに 炊きあがるはずだ。その間、テント内の片付け、アンテナのチェック、 道具箱の整理など、結構ごそごそやっている。  今日は、対馬市での運用の最終日。はたして今夜はどんなことが 起きるのだろうか。コンディションはどうなのだろうか。7エリア、 8エリア方面が天候がわるそうだ。すべて前線のいたずらだ。

 今夜に備えて、発電機用の予備タンクに少しガソリンを補給して おきたかった。山をおりて、比田勝港近くのスタンドへ寄る。ついでに 飲料水を20リッター入りタンクに詰める。スタンドのマスターは かっての2mのアクティブ局だった。
 430メガで運用すると聞いて、 「ほんとうに、やるのですか?」、やはり、そんなこと 考えたこともないのだろう。
「千葉から?そんなためにね!」
 権現山にいると聞いて、それは当然と云わんばかりのうなずいた。

 水タンクを持ち、10リッターばかり補給したガソリンタンクを 担ぎ上げる。すると、見慣れない男たちが草地の中央部でなにやら 掘り返しながら仕事を始めているのに気づく。
 よく見ると、基本測量点の杭のあたりだ。国土地理院の地形図で おなじみの「三角点」なのだ。昔の測量で測定した三角点は、 今は、人工衛星を使いGPS方式で算出される電子的数値に置き換え られていると聞いている。
 それも、世界的に通用する国際基準に合致する設定方式を日本も 取り入れることで、法律が改正され、すでに順次実行されているのだ。
 全国の自治体に、電子的基準点が設けられ、全ての測量の原点 として使われるように整備されているようだ。
 例の「三角点」も、そのために、新しい「三角点」としての 測量を経て、標識を入れ替える作業のようだ。森林公園の展望台 である、この場所は、ロラン局の電波塔が建っていたところだ。

 午後の日射しがきびしくなる。沖合を韓国釜山をめざす高速船が エンジン音をとどろかせながら爆走している。夕方近くなると 漁港から今夜の仕事につく漁船が一斉にでかけていくのが望見 される。かなりの沖合で漁する「漁り火」の主人公たちだ。


漁火の演出家
 駐車場から家内がハンディー器で食事タイムを知らせてくる。 強まった風にテントがひしゃげそうだったので、ロープで補強する。 アンテナもデベロープのステー線を数カ所の入れ、ターンバックルで 締める。
 午後7時半。西日本では北と違って、日没の時間が少し遅い。
 夕陽を見たがっていた彼女が、飲み物を持ってあがってきた。 こころゆくまで、ぼう然と眺めながら、十分に満足できる何かが 漂っていた。こんな場所で、移動運用ができるなんてやはり幸せ以 外のなにものでもない。

 発電機のスイッチを入れ、テント内のパイロットランプが 点灯。滞在最後のスケジュールが始まる。例によって、園畠さん がオープニングの声をかけてくれ、つづいて、期間中ずっと 交信を見守ってくれたJA4MVG局、嘉沢さんの強力な信号が 飛び込んでくる。午後8時過ぎあたりからの各局のコールが 激しくなる。なんとしても聞きたかった各局のなかでも、期待 していたコールサインを対馬で聞けたのが嬉しかった。
 神奈川県足柄下郡で移動運用する1エリア各局、昨夜交信を 果たせなかった、ゼロエリアのJI0DEV局、前川さんが、今夜は 下伊那郡からでるという。
 いずれも交信のリポートを送れる交信が成立した。格別な 興奮は、串木野市から呼んでくれたJE2LXS/6局、新井さんとの 交信だった。沖縄の宮古島移動での活躍が印象的だった彼に あらためてお祝いのメッセージをを贈った。

   午後10時をすぎて、もうお開きにしようとした時間に、 滑り込むようにJG3KLF局、福本さんはじめ各局が間に合った。
多忙な毎日なのだ。それにして交信できて嬉しかった。
 心強いワッチをいただいたJG4BUO局、大森さんとのファイナル コールも感謝だった。ありがとうございました。

 星空が美しく、北の空にポラリスのかがやき、北斗七星の 見事な柄杓がきわだっていた。今夜は新月だった。
 素晴らしい一夜が静かに過ぎていった。