運用3日目
2006年7月27日
 今日の対馬は、快晴、やや強めの西風がこの高台に吹いている。 空の雲はまさしく夏の空模様、青空には美しい高層雲が刷毛で描いた ように、透明な敷布をたなびかせている。
 気温は炎天下で34℃。夕方近くには昨日のような激しい夕立が 予報されている。21メガも調子はいまいち。それでも8エリアや 6エリア島尻郡あたりから声がかかる。
 ここ権現山は海抜183m、見晴らしは抜群。この場所を勧めてくれた 江藤さんに感謝だ。
 アキアカネが乱舞し、キアゲハ、カラスアゲハが草地の花々を 求めて飛来する。森林公園の木々は鬱蒼としていて、人の足を 踏み入れたような形跡もみられない暗い森林だ。本当は、手を入れた くても経費がなくて、荒れるに任せているのかもしれない。
 製材業を営んでいる江藤さん自身でも、安い外材の輸入問題は 避けて通れないという。息子さんの代には、木材の新しい事業を 立ちあげることで新会社が設立されている。建築をめぐる物件の 開発、販売が急務だという。


東屋が倉庫に
 足下の草地はかなり保水力の高い植生でおおわれ、育成も旺盛だ。 誰かが云った。あそこにはマムシがでるから気をつけろ、と。 草地を歩くなら棒などで叩きながら行きなさい、と。
 こんなところで奴にかまれるなんて、とんでもない。展望台に やってきた親子連れなど、何喰わぬ顔で子供たちを草地で遊ばせ ている。私ならとてもできない。街もいい加減なことを云わないで 対処して欲しいものだ。毎年、血清が間にあわず命を落とす方が 居るマムシ天国はここだけではないが。

 風に吹かれながらPCと向かい合っていたら、背後からいきなり 男性の二人連れに声をかけられた。どういうわけか、私のことを 知っていて驚く。コールサインを失効させずに維持し、休眠状態 だという。アビルさんという。もう一人の方は、地元小学校の 先生。当然、地元江藤さんたちの仲間だ。
 展望台に組み上がったアンテナを見上げながら 「誰ですかね。よくもまぁ、やるもんですね!」云いたいことは よくわかる。彼の生業は豆腐屋さん。
「帰りに一丁置いていくから食べてね。島の豆腐は美味いよ」  彼は、島では生き残りのハムとしては、数少ない一人だという。
 かっては、自宅裏の山頂まで1200mのケーブルを引いて、とん でもない無線ライフにこだわっていたそうだ。話を聞くだけでも、 そんな仕掛けどうやってできるのか、聞いてみたかった。
 数百万かかったとか。当時、或るメーカーからも問い合わせが あったそうだ。
 この対馬の山岳地帯は、高度はそれほどではないが、とても 深くて、歩きにくい。登山路も整備されておらず、迷いそうに 見える。複雑な入り江には漁港と集落が密集し、集落と集落を つなぐ道路は、少なからず急な峠道を越えねばならない。
 この一見不便な生活が、静かさと生計を保ってきたのだろう。 文明のルーツをたどる要所にあり、様々な時代の政策や為政者 に振り回されてきたのだろう。
 現在は、その隣国である韓国から、多くの訪問者がある対馬。 観光ポイントや施設は整備され始めているが、住民には、穏やか ならぬ危惧があることも事実。
 ここ対馬で常置場所として無線局の運用は楽ではないだろう。 だからこそ、工夫をしながら、なんとかQRVしてくれる局の出現が 待たれる。
 しかし、苦労しながらでも運用できる可能性は高い、面白い ポイントだとおもう。

 駐車場に戻ると、先ほどの大きなプレゼント、「豆腐」が バケツのなかにあった。今夜は、久しぶりに美味しい冷や奴に ありつけそうだ。毎食苦労しながらメニューを考えてくれる 家内だが、今晩は、醤油に鰹節の冷や奴がメインディッシュ。 美味しかった。
 午後7時半からの運用スケジュールも、風が強くなった展望台 で始まった。テントが風で押しつぶされそうになる。この風、 この景色の中での運用、これが移動運用の醍醐味。
 遅い日没がすぎ、夕焼けがしずまり、なぜだか空を東へと 流れるように忙しい雲をみやりながら、スイッチをいれた。
 今夜も、JA6ITH 局、園畠さんが予定周波数で待っていて くださった。ありがたいことに多くの各局が待機してくれて いた。昨夜に続いて、長野県美ヶ原移動局は苦戦だったが、 どうやらこちらからの電波は、千葉県木更津市まで飛んでいって しまったようだ。よくキャッチしてくれた。感謝だった。
また明晩、明日は対馬最後の運用だが、もう少し頑張ってみよう。